【連載】OKR基礎講座⑧
従来のMBOにおいては、個人の目標は上司と「握る」ものであって、公けに公開することは一般的ではありませんでした。ましてや、目標の進捗度合いを公開することなど言語道断でした。なぜなら、MBOでは目標の達成度によって人事評価が決まるため、進捗度を公開することは評価を公表するようなものだったからです。しかし、OKRにおいては目標とその進捗状況を公開することが基本です。ただし、OKRの達成度を人事評価に直結させないという前提条件が担保されている必要があります。
- OKRの考え方
⑤ オープン
MBOにおける目標は売上や利益に関する予算目標が多く、各人に同じような目標が割り当てられました。そのため、目標の進捗状況を公開することに対しては、学校の試験の成績を公開するような抵抗感があったと思います。しかし、OKRにおいては各人のやりたい目標が異なるため、単純に比較できないことが、公開することへの心理的な抵抗感は和らげられます。
その上で、目標とその進捗状況を公開することには以下の2つの効果があります。
◆個人のコミットメント向上
OKRを公開することの1つ目の効果は、成果が高められることです。
「目標を記述する」⇒「目標を記述して公開する」⇒「目標と進捗状況を公開する」といった順番で、目標の達成度が高まるという調査結果があります。目標と進捗状況を公開することによって、アカウンタビリティ(説明責任)やコミットメントが強化されると考えられるからです。
目標達成に向けた意欲を引き出すために、一定の緊張感や責任感を持続させる動機付け要因は必要です。MBOでは目標の達成度を人事評価に結び付けた圧力的な動機付けが採用されましたが、OKRにおいては周囲に見られていること、および周囲に対して説明責任を有することによって、より健全にコミットメントが高められる環境を創ります。
◆組織のパフォーマンス向上
OKRを公開することの2つ目の効果は、コラボレーションを容易にすることです。
組織の壁の存在を象徴する例として、同じ部内であっても隣のチームが何をしているのかわからない、といった声をしばしば耳にします。ましてや、部が異なれば、ますますブラックボックスのような状態になります。
隣のチームの業務内容は、業務分掌で知っているはずですが、「何をしているかわからない」と感じるのは、他者が今まさに、何の目標に向けてがんばっているかがわからないからです。OKRと進捗状況を公開することによって、この問題が解消されます。
組織の成果に占める「ネットワークパフォーマンス」の比重が高まっていると言われています。ネットワークパフォーマンスとは、個人単独でのタスクによる成果ではなく、他者との相互関係によって生み出される成果を意味します。
たとえば、他者から何らかの貢献を得て自分の成果を出す。逆に、自分が他者に対して何らかの貢献を行って他者が成果を生み出す、といった相互貢献を増やすことによって、組織のパフォーマンスは高められます。OKRを公開することによって、個人の成果だけではなく、組織全体のパフォーマンス向上が期待されるのです。