個人主導のキャリア開発の前提となる「キャリア研修」

更新日: 2023-02-03

ジョブポスティング(社内公募制)を導入して、個人主導のキャリア開発を促進する会社が増えています。しかし、そもそも自律的・主体的にキャリアを開発したいと思う人の数が少なかったら、ジョブポスティングには応募しないでしょう。そのため、ジョブポスティングの制度を作るだけでなく、キャリア自律を促すための組織的な支援が必要となります。

 

キャリア自律を促進する施策

 

キャリア自律の促進要因に関する実証研究*1によれば、組織として従業員のキャリア自律を支援する施策として、「上司によるキャリア支援の強化」と「キャリアカウンセリングの導入・活用、キャリア研修」が示唆されています。

*1 「キャリア自律を促進する要因の実証的研究」(堀内泰利、岡田昌毅、産業・組織心理学研究 第29巻 第2号、2016年)

 

1つ目の「上司によるキャリア支援の強化」のための施策には、1on1における上司からのキャリア開発支援が含まれます。2つ目の「キャリアカウンセリングの導入・活用、キャリア研修」については、キャリアカウンセリングとキャリア研修がセットで導入されるケースが多く見られます。キャリアカウンセリングによる個別相談のためには、まず本人が自分自身のキャリアについて考えている必要があるため、以下では従業員がキャリアについて考えるためのキャリア研修を中心に解説します。

 

キャリア自律の2つの要因とは

 

上記の実証研究によれば、キャリア自律には以下の2つの要因(側面)があるとされています。

<キャリア自律>

  • ●心理的要因
    • ・職業的自己イメージの明確さ
    • ・主体的キャリア形成意欲
    • ・キャリアの自己責任自覚
  • ●行動的要因(キャリア自律行動)
    • ・主体的仕事行動
    • ・キャリア開発行動
    • ・職場環境変化への適応行動
    • ・ネットワーク行動

 

キャリア研修では、自身の将来的なキャリアビジョンを描き、意欲と自覚を高め、ビジョンに向けた行動プランを立てることを通じてキャリア自律を促します。

 

キャリアのあり方は十人十色です。だからといって、一人ひとりがそれぞれに考えればよいわけではなく、研修の場で他の参加者と語り合いながら、他の参加者のキャリアに対する考え方との違いにも触れることで、自身の考えを整理する方法が効果的です。他者との違いがわかるからこそ、自身のキャリアのテーマがより明確になるのです。

 

キャリア研修のタイミング

 

企業内におけるキャリア研修は、年齢的な節目で行われるのが一般的です。会社ごとの昇進タイミングや年齢構成などによって異なりますが、例えば以下のようなタイミングで自身のキャリアを考える機会を提供するとよいでしょう。

  • ●新卒入社3~4年目頃(若手)

会社の状況や仕事の内容について一通り理解し、キャリアを考えるのに必要な情報が得られた時期。希望を広げる方向でビジョンを描く。

 

  • ●30代前半~半ば(中堅)

職場の中核人材として活躍する時期。自分は何を大切にしてどこに向けてキャリアを歩みたいかを立ち止まって深く考える。

 

  • ●45歳~50歳頃(シニア)

社会人人生の後半戦。キャリアだけでなくライフプランも含めて、自分の人生のシナリオを用意する。

 

若手・中堅のキャリア研修

 

若手と中堅期のキャリア研修において重要なことは、キャリアビジョンを描いて、それに向けたアクションを検討することです。図1に示すように、それは概ね以下のようなステップとなります。

 

  • ●自分を知る

自分は何を大切にしていきたいかという価値観につい考える。過去からの自分の心理的な変化を振り返ったり、エニアグラムなどの心理テストを活用したりしながら、自分の内面に焦点を当てて自分自身の価値観を確認する。

 

  • ●環境を知る

自分を取り巻く環境(会社組織やそれを取り巻く外部環境)に目を向け、自分の外側から自分を客観視する。会社のパーパス・ビジョンも踏まえ、期待される役割や貢献内容について考える。若手の頃は周囲からの期待といった身近な環境が中心となるが、中堅になると会社を取り巻く環境にまで視座を高めることが求められる。

 

  • ●キャリアビジョンを描く

3~5年後のありたい姿を描く。会社や周囲からの期待を念頭に置きつつ、自分の価値観に従ったありたい姿を描く。ビジョンは端的な言葉に凝縮される必要はなく、未来の情景がイメージできる表現を抽出する。

 

  • ●アクションプランを立てる

キャリアビジョンの実現に向けた行動を明確にする。キャリアビジョン単体のアクションではなく、仕事における目標(OKR)達成の延長線上でキャリアビジョンに近づいていくことが望ましい。また、360度フィードバックや日頃の1on1でのフィードバック結果も踏まえて、自身の行動変革について考える。

 

キャリア研修のアウトプットは、1on1でリーダーにも共有されることが必要です。アクションプランに基づいた行動の結果、1on1における経験学習支援が実施され、それを通じて次のアクションにつながっていく流れが作られることが望まれます。

 

シニアのキャリア研修

 

シニアのキャリア研修の場合は、若手のように白地のキャンパスに自由に絵を描くというわけには行きません。自分自身や家族の年齢から、将来的に起こり得るライフキャリアイベントがある程度、予見できる要因も少なくありません(自分の定年、親の介護、子どもの独立など)。それらのイベントの際に取り得る選択肢も複数存在するため、その選択によって今後のライフキャリアのシナリオが異なってきます(図2)。

 

リスキル(学びなおし)が求められる変化の激しい時代ですが、自分のライフキャリアのシナリオを明確にすることによって、何を何のために学びなおすのかが確認できるようになります。自分自身のシナリオを持って、それに向けて準備をすることによって、自律的なライフキャリアを実現することができるようになるのです。