【連載】OKR基礎講座③

更新日: 2023-04-25

OKRが「アンビシャス(野心的)」な目標であることを担保するために、OKRには「達成度」を評価に用いないという大原則があります。ところが、そのことがOKR導入を躊躇させる要因になっているケースが少なからず見受けられます。すなわち、達成度を評価に用いることができないのであれば今の評価制度では運用できないとか、100パーセント達成されなければならない予算目標をどうするのか、といった懸念があるからです。しかし、これらの懸念は、固定観念やOKRに対する誤解に起因している面が少なくありません。

 

 

  3.OKRの考え方(続き)

③ アンビシャス(続き)

◆「達成度」なしに評価はできるのか

従来の目標管理制度(MBO)では、個人目標の達成度を評価に直結させるという運用が一般的に行われてきました。しかし、達成度で評価をすると達成できそうな目標しか立てられなくなるという弊害は、実はこれまでのMBOにおいても指摘されてきたことです。

 

そのため企業によっては、目標に「難易度」という項目を加えているケースもあります。難易度が低ければ、たとえ達成度が高くても良い評価にはならず、その逆も然りという運用が可能になるからです。

 

このケースでは「達成度」ではなく、成果の「大きさ」を評価に用いていることになります。なぜなら、「難易度×達成度=成果の大きさ」を表すからです。つまり、難易度を判定することができるなら、成果の大きさを判定できることになるため、それならば最初から成果の大きさによって評価すればよい、と言えます。

 

部門や職種が違えば、成果の種類や内容が異なるため、単純に横並びで比べることはできませんが、目標の達成度を評価に用いることによって、部門や職種を越えて同じ基準を適用できるというメリットがありました。しかし、従来のMBOにおいても部門によって目標自体の甘辛がある、といった問題は存在しました。

 

そこで目標が低くて甘くなるケースを排除するために、ここでも「難易度」が議論されましたが、そもそも別の部門や職種の目標が甘いのか辛いのかを判断することは困難です。つまり、成果評価を全社横並びで行うことには無理があり、もともと部門や職種単位でしか判断ができないものと言えます。

 

上記のように部門や職種単位で成果の大きさを評価する運用を行えば、達成度を評価に用いる必要はありません。そのことは、実はMBOでもOKRでも同じことなのです。

 

◆100パーセント達成されなければならない目標をどうするのか

達成度を評価に用いることができなければ、予算目標のように全社でかならずやり遂げなければならない目標を徹底できない、と考えられることも少なくありません。

 

しかし、OKRにおいては100パーセントの達成を目指す「コミットメントOKR」(Committed OKR)をOKRツリーに含めることが許されています。このコミットメントOKRには、売上・利益といった予算目標もあれば、「事故ゼロ」などの必達目標も含まれます。これは、達成度を評価に用いることを意味するのではなく、必ず達成されなければならない目標をOKRに含めてもよい、という考え方なのです。

 

もちろん、コミットメントOKRが多すぎると、アンビシャスというOKRの基本的考え方を維持できないため、一部に止める必要がありますが、このような運用は可能とされています。

   3.OKRの考え方(続き)

④ クロスファンクション

 

 

従来のMBOにおける目標設定では、各人が自分の目標を考え、目標管理面談で上司の意見を聞いて確定する方法が一般的でした。しかし、OKRは簡単には達成できない野心的な目標であることから、自分一人だけの力ではなく、多くの人の協力を得ながら達成を目指すことが重要になります。つまり、OKRにおいては「コラボレーション(協力・連携)」が不可欠です。そのため、目標を設定するプロセスや実行するプロセスも、従来の目標管理とは異なったものとなります。

 

 

◆ワークショップによるOKR策定

コラボレーションによって高い目標を達成するためには、そもそもOKRを立てる段階でコラボレーションを織り込んでおくことが効果的です。そのために、OKRを策定する際には一人で黙々と考えるのではなく、成果創出に関係するメンバーが集まって議論する場が必要とされます。その場が「OKRワークショップ」です。

 

高い目標の達成のためには、様々な専門性や知見を有するメンバーの関与が必要となるため、OKRワークショップは部門や機能横断(クロスファンクション)で実施されます。例えば部レベルのOKRを立てる際には、営業、開発、管理といった部の責任者が集まってOKRを議論するといったイメージです。

 

クロスファンクションでの取り組みを推進するために、全体をまとめるOKR事務局を設置することが必要になります。OKR事務局のメンバーは「OKRコーチ」としてワークショップのファシリテーションを実施したり、全社的なOKRの策定や運用の進捗や課題を管理するプログラムマネジメントを実施したりします。

 

◆組織横断のOKRの関連付けとOKRの共有

クロスファンクションでのコラボレーションをより直接的に織り込む方法は、OKR自体にクロスファンクション連携の要素を含めてしまうことです。そのための1つ目の方法が、組織横断でのOKRの関連付けです。

 

例えば、営業部のOKRの達成にマーケティング部のメンバーが貢献しうるとき、営業部長のOKRに貢献する下位のOKRをマーケティング部のメンバーが設定する、といった運用が可能です。従来のMBOでは組織の縦割りが強かったため、他の組織の目標達成に貢献する目標を立てることなど考えられませんでしたが、OKRにおいては組織の壁を越えることはむしろ推奨されます。

 

クロスファンクションを織り込む2つ目の(より直接的な)方法は、異なる部門で共通のOKRを共有することです。例えば、あるOKRを達成するために営業、開発、管理部門で協力することが必要な場合、営業部長、開発部長、管理部長をそのOKRの共有オーナー(共同責任者)に設定するといった方法が可能です。別の言い方をするなら、そのOKRの達成を目指すバーチャルなチームを形成するのです。

 

OKRの共有はこのような組織の横の関係だけでなく、組織の縦の関係でも用いられます。たとえば、社長と担当役員が共通のOKRを共有する、あるいは部長と課長が共通のOKRを共有するといったケースです。縦でのOKR共有を行うことによって、OKRの階層を過度に深くせず、フラットな組織運営を行うことが可能です。

 

従来のMBOにおいては、個人の目標は上司と「握る」ものであって、公に公開することは一般的ではありませんでした。ましてや、目標の進捗度合いを公開することなど言語道断でした。なぜなら、MBOでは目標の達成度によって人事評価が決まるため、進捗度を公開することは評価を公表するようなものだったからです。しかし、OKRにおいては目標とその進捗状況を公開することが基本です。ただし、OKRの達成度を人事評価に直結させないという前提条件が担保されている必要があります。

 

  3.OKRの考え方(続き)

⑤ オープン

MBOにおける目標は売上や利益に関する予算目標が多く、各人に同じような目標が割り当てられました。そのため、目標の進捗状況を公開することに対しては、学校の試験の成績を公開するような抵抗感があったと思います。しかし、OKRにおいては各人のやりたい目標が異なるため、単純に比較できないことによって、公開することへの心理的な抵抗感は和らげられます。

 

その上で、目標とその進捗状況を公開することには以下の2つの効果があります。

 

◆個人のコミットメント向上

OKRを公開することの1つ目の効果は、成果が高められることです。

 

「目標を記述する」⇒「目標を記述して公開する」⇒「目標と進捗状況を公開する」といった順番で、目標の達成度が高まるという調査結果があります。目標と進捗状況を公開することによって、アカウンタビリティ(説明責任)やコミットメントが強化されると考えられるからです。

 

目標達成に向けた意欲を引き出すために、一定の緊張感や責任感を持続させる動機付け要因は必要です。MBOでは目標の達成度を人事評価に結び付けた圧力的な動機付けが採用されましたが、OKRにおいては周囲に見られていること、および周囲に対して説明責任を有することによって、より健全にコミットメントが高められる環境を創ります。

 

◆組織のパフォーマンス向上

OKRを公開することの2つ目の効果は、コラボレーションを容易にすることです。

 

組織の壁の存在を象徴する例として、同じ部内であっても隣のチームが何をしているのかわからない、といった声をしばしば耳にします。ましてや、部が異なれば、ますますブラックボックスのような状態になります。

 

隣のチームの業務内容は、業務分掌で知っているはずですが、「何をしているかわからない」と感じるのは、他者が今まさに、何の目標に向けてがんばっているかがわからないからです。OKRと進捗状況を公開することによって、この問題が解消されます。

 

組織の成果に占める「ネットワークパフォーマンス」の比重が高まっていると言われています。ネットワークパフォーマンスとは、個人単独でのタスクによる成果ではなく、他者との相互関係によって生み出される成果を意味します。

 

たとえば、他者から何らかの貢献を得て自分の成果を出す。逆に、自分が他者に対して何らかの貢献を行って他者が成果を生み出す、といった相互貢献を増やすことによって、組織のパフォーマンスは高められます。OKRを公開することによって、個人の成果だけではなく、組織全体のパフォーマンス向上が期待されるのです。