【新春対談】これからの企業文化と人材戦略:ジョブ型人事とスキルベースの融合

更新日: 2024-01-10

 

HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏と、アジャイルHR代表取締役の松丘啓司との対談をお届けします。

 

スキルベースの動向

楠田:2018年から始まった日系大企業のジョブ型人事制度導入は、現在運用段階に入っていますね。日本人の真面目さは海外でも評価されており、ジョブディスクリプションに忠実な社員が増えています。しかし、仕事をジョブ定義通りにこなすだけの社員も増えていることに注意が必要です。ジョブ型の導入とリスキルの同時進行は、従業員を受け身の姿勢にする可能性があります。

ジョブ型が運用に入った今、スキルベースの仕組みとカルチャーへの移行が重要です。スキルベースでは、「旬で即座に活用できる」スキルが必要です。変化の激しい現代においては、過去の資格やスキルは意味を失いがちです。そのため、継続的な学習の重要性が増しています。

例えば、パンデミック後のアメリカの企業が業績ベースからスキルベースへとサクセッサー選びを変えたように、シニアやエグゼクティブ層にも学び続ける好奇心が求められます。

「ニューカラー」という新しい用語は、IBMの前CEO、Ginni Romettyさんが提唱しました。これは、学位ではなくデジタルスキルで競争する新しい職業群を指します。IBMでは、採用条件から「大卒」を除外したことが象徴的です。現在、IBMの人材の7%がこのニューカラーに該当します。アメリカでは、大卒の学歴条件を撤廃した企業が増えており、日経新聞は「学歴神話に決別し、学習歴を重視する」と報じています。

デジタルスキルと組織の学習文化

松丘:確かに、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連のスキルは、現在のビジネス環境で重要視されています。しかし、新しい技術やトレンドは裏を返せば、それ自体が迅速に陳腐化する可能性を秘めています。特に日本においては、デジタルスキルを持つ人材の供給が追いついていないのが現実です。

この状況では、社内でのリスキルがより重要となりますが、そのためには社員が自発的に学ぶ文化を育てることが重要です。強制的なリスキルでは、社員の受け身の姿勢を助長することになりかねません。

ジョブ型人事制度の導入と同様に、スキルベースの企業文化の推進は、これからの組織にとって欠かせない要素だと思います。継続的に学び、進化する「学習する組織」の形成は、ニューカラーの概念とも密接に関連しています。デジタルスキルへのニーズが高まる中、組織全体での学習文化の確立とその支援システムが必要ですね。

タレントマーケットプレイスと社員の自律的なキャリア形成

楠田:最近注目されている「タレントマーケットプレイス」についても触れてみましょう。これは、社員のスキルや関心事に基づいて、適切な機会や仕事の役割をマッチングする仕組みです。AIの活用も可能で、これにより社員のキャリア意識や自律が促進されます。スキルベースの仕組みがあれば、タレントマーケットプレイスの普及がさらに進むでしょう。そして、年功序列の制度は徐々に過去のものとなっていくでしょう。

松丘:楠田さんの言及した「タレントマーケットプレイス」は、将来の人事戦略にとって非常に重要な仕組みだと思います。社員が自分のキャリアを自ら形成するための機会を広げるからです。それに向けて、会社はキャリア研修の提供などを通じて、社員が自分のキャリアビジョンを描き、自律的に必要なスキルや知識を獲得することを動機付ける必要があります。

また社員が受け身にならないために、仕事への楽しみや意義を感じられることが重要と思います。そのためには、スキルだけでなく、ワークエンゲージメントを高め、社員の没頭感や情熱を引き出すマネジメントが重要です。MBOのような外発的な動機付けではなく、社員一人ひとりの興味や強みをベースに、自律的なキャリア形成を支援するマネジメントがますます求められると思います。

事業創出の新たなプラットフォーム

楠田:アジャイルHRの提供するOKRと1on1を結ぶWAKUASについてですが、現在の日本企業においては、社員一人ひとりが大胆にチャレンジすることが重要です。心理的安全性が高まっている企業は増えていますが、社内で自由にアイデアを出せる文化はまだ十分ではありません。

文字コミュニケーションと口頭コミュニケーションを活用し、イノベーションを生み出す新たな仕組みを人事や現場で構築することが望まれます。働き方改革により、従来のMBOから離れた新しい取り組みに時間を割けるようになりました。スキルベースのカルチャーを築き、社員が自主的に学び続けることで、WAKUASは事業創出の新たなプラットフォームとなり得ると思います。

松丘:本日はありがとうございました。