【対談:1on1マネジメント】1on1による内的動機と意図の理解

更新日: 2023-10-13

アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。

 

1on1により内的動機への気づきを促す

 

夛田:コロナウィルスにおける環境変化により、様々な外的な要因に気持ちを左右されることもあると思います。今回はそのような環境変化に左右されるのではなく内的な動機づけを意識しながら仕事をしていく、あるいはマネジメントを行っていくことについて、お伝えしたいと思います。松丘さん、内的動機づけを大切にすること、また外的要因に左右されないということ、この点についてはどのようにお考えですか?

 

松丘: 仕事に対する取り組み意欲とか、前向きさとかは、やはりその人のモチベーションの度合いに依存する部分が非常に大きいわけですよね。モチベーションが高いと集中できたり頑張りを持続できますし、モチベーションが低い時は仕事が手につかなかったり、なかなか思うように進まないという状態になったりします。誰でもモチベーションというのは波のように上がったり下がったりしますよね。常に高い状態に保つということは簡単ではないのですが、あまり低い状態になってしまうのもよくありません。

 

どういう時にモチベーションがすごく下がってしまうかというと、それは自分の問題というよりも自分の外的要因の変化に左右されることがすごく多いわけです。例えば組織や上司が変わったとかみたいなこともありますし、今まで担当していたのと全然違う仕事を担当しなければならなくなるとか、会社に勤めていると色々な外的な変化があります。会社に勤めていなくても、新型コロナウィルス感染拡大のようなことがあると、やはり気持ちが沈んでしまったり、保守的になってしまったりすることはありますよね。モチベーションが下がるのは、そういう外的環境の変化がネガティブに作用していることが非常に多いといえます。

 

夛田:外的要因はなかなか自分では変えることができないと思うのですが、外的要因に左右されないためには、何かポイントや工夫という点はあるでしょうか?

 

松丘:まったく左右されないというのは難しいですね。ただ、自分にとってフォローの風が吹いている時は別に何もしなくても調子がよいですが、アゲインストの風が吹いているとどうしてもその作用を受けてしまいます。ただ、アゲインストの風が吹いていたとしてもその中で自分のモチベーションを高めることはできます。その中でもなすがままにされるのか、その中でも自分のモチべーションを高く保つか、それは結局、環境の問題ではなく本人の問題なわけです。

 

本人の問題とは何かというと、その人がどういうときにモチベーションが上がるか、やりがいを感じるかという、いわゆるその人自身の内的動機ですね。内的動機(動機は英語でモチベーションですが)が高まっているとアゲインストの風の中でも、自分のモチベーションをある程度、維持するということはできると思います。

 

夛田:本人の問題が大きいとのことですが、なかなか自分でそのことに気づかれている方は少ないのではないのかなと思います。上司のせい、職場のせいにしてしまっていることに気づかないということですが。これについて自分で気づく、あるいは気づかせることになるかと思うのですが、その場として有効なのはやはり1on1なのでしょうか?

 

松丘:自分の動機というのにはなかなか気づきにくいものです。心理学などで動機を分析する手法というのはありますが、1on1の対話の中でも、例えば上司から〇〇さんはどういう時に充実感が高まるのかとか、最近仕事でやりがいがあったのはいつだったかとか、その人の働きがいが高まっている場面について尋ねることで、この人はこういう時にやりがいを感じるんだ、こういうことにこだわりがあるんだ、といったことが上司の方も分かりますし、質問されることによって部下も自分で確認できるという効果があります。

 

夛田:なるほど。1on1は新たなことに気づけるよい機会になるということですね。先日1on1の研修を実施しましたが、その中でも受講者の方がおっしゃっていました。1on1を聞き手、話し手と分かれてペアワークしていただいた中で、話し手になった方が、気づいたら自分は文句ばかり言っていると。まさにこれが1on1をやる中での話し手側の気づきですね。上司役の方が、君は文句ばっかり言っているねと指摘したわけでは決してなかったかと思いますが、自分自身でこのような気づきが得られるというのはすごく大きな意味だと思います。

 

松丘:そうですね。自分は外的な環境についての文句ばかり言っていて、自分の内的動機を高めようという努力もしなかった。そもそも自分の内的動機がどういうことかなかなかわからないですよね。だからそこで上司と対話をするというのは効果的かなと思います。

 

夛田:1on1は自分と相手とで対話するため、その2人にとってのよい時間という意味も含まれているかもしれませんが、ある意味、自分と対話するといいますか、自分を内省する時間にもなっているのではないかなと思います。

 

対話は相手と行うものでありながらも、自分との対話についてもぜひ心がけていただきたいということをお話しましたが、その対話についてもう少し深めていきたいと思います。対話における推論力というテーマを掘り下げていきます。

 

対話の鍵は感情とその裏の本音にある

 

夛田:松丘さん、この推論力というものですけれども、これは上司側がメンバーのことを推論していく、想像していく、そんな意味合いでしょうか?

 

松丘:当然、上司も部下もお互いのことを知る必要がありますが、基本的にはまず上司からということですね。

 

夛田:対話の中で上司からメンバーの何を推論していくとよいのでしょうか?

 

松丘:前回の話にあったように、この人はどういう時にやりがいを感じるのかとかという、その人の内的動機、モチベーションのスイッチはどこなのかといったことを理解することと、その人がどういう価値観を持っているのか、つまり何を大切にしているのかを知っていくことです。上司はその人の外見やこれまでの経験とかはわかりますよね。しかし、その人がどういうその心の動き方をするのかといったような内面的なところは見ただけではわからないわけです。

 

コミュニケーションを通じてでないとわからないのですが、話の中で明確に私の内的動機は〇〇です、私の価値観は〇〇ですと本人が答えてくれることはまずありません。なぜなら、本人もよくわかっていないケースも多いですし、あるいは価値観は非常に抽象的で感覚的なものなので、言葉で簡潔に表すのは非常に難しいからです。そのため、上司の方がいろいろ質問したりしながら引き出していくというか、輪郭をだんだんとはっきりさせていくみたいなアプローチが必要になってきます。

 

その時に、もしかしてこうなんじゃないかとか、この人がこういう価値観を持っているとすると、そういう所にこだわるのは納得がいく、というような推論をしていく必要があるのです。

 

夛田:自分から私はこういう価値観を持っているとは言ってくれないので、上司の良質な問いが非常にポイントになると思うのですが、引き出すための問い、また目に見えない輪郭をはっきりさせていくという効果的な問いの方法はどうすればよいのでしょうか。たとえばあなたはどんな性格なのですか?と聞いてもなかなか答えられるメンバーもいないかと思うので、その効果的な問いについて皆さん知りたいのかなと思います。

 

松丘:たとえば、どういうときに仕事で充実感を感じるか?最近、やりがいを感じたのはいつだったか?最近、よかったことは何?みたいなことでもいいですし、あるいは嬉しかったことは?という問いもよいと思います。

 

嬉しいと一言で言っても、その内容は人によって千差万別ですよね。嬉しかったと言ったときに、どういう状況でどんな気持ちだったのか。その嬉しかった理由がもしかして人に感謝されたからかも知れないし、あるいは会社の中で注目されて評価された、皆の前で表彰されたとか言うようなことが嬉しかったのかも知れません。あるいはみんなで助け合って何かをやり遂げたみたいなことが嬉しかったのかも知れない。つまり、その「嬉しい」の裏側に、その人の価値観や内的動機が隠れているわけです。

 

こうだったから嬉しかったのですか?と聞くとそうですって答えるかも知れないし、少し違うと答えるかも知れません。ですので、返ってきた答えから、もしかしてこの人の嬉しいはこういうことなのかなという仮説を立て、それを相手にぶつけてみて、いやちょっと違うんですと言ってもらえると、どこが違うのかがわかります。そこにヒントが隠されているので、もしかしてこういう形かもしれないということをまた投げかけてみて、そんな感じです、ということでやっとイメージができます。

 

夛田:ポイントは主に2つかなと思いました。

まず1つ目は、どんなことを感じているか、何にやりがいを感じているか、また充実感を感じているかということですので、感情の言葉を引き出すということが一つ。つい、周辺の事実を聞いてしまいがちですよね。どんな仕事やタスクを抱えているのか、納期が迫っているのかとかそういったことを聞きがちですがそうではなく、どんなことを感じているのかという気持ちを聞き出す。

 

2つ目のポイントはその感情からその裏を読み解いていく。楽しかったこと嬉しかったことを深掘りしていくということですね。その2つが対話におけるポイント、また、対話の質を上げていくポイントなのではないかなと思いました。

 

対話の本質は傾聴と推論による意図の解釈

 

夛田:世の中には似た日本語がたくさんありますが、対話と似た言葉では“会話”という言葉があります。また“議論”という言葉もあります。

コロナ以降、対話の重要性、家族の中でもそうですし、社員とどうコミュニケーションを深めていくかを課題として捉えている会社も非常に多いのではないでしょうか。松丘さんは対話についてどうお考えですか?

 

松丘:対話というのは、文字通りお互いに話すということですが、先ほど言われた“議論”は、どちらかというと対極にあるコミュニケーションのやり方なので、それと対比するとわかりやすいですね。

 

“議論”は英語ではディスカッションですが、語源として戦いの概念を含んでいます。議論に勝つとかいうように勝ち負けがそこに含まれています。どうしたら議論に勝ったと言えるかというと、話し手側の主張を相手に納得させると勝ったということになるわけです。基本は自分が伝えたい、あるいは相手を納得させたい何かを持っていて、相手に伝えるわけです。

 

“対話”というのは、流れとしては逆で、最初にまず相手がいったいどういうことを考えているのか、あるいは何を大切にしているのか、そういうことを理解した上で、それに対して自分の考えを乗せていくとか、あるいはどこが違うかということを伝えていく。まず相手を理解するというところが最初にあるわけです。対話なので、どちらか片方が理解すればいいわけではなく、双方が相手を理解した上で自分の考えを伝えていくことによって、より話が深まっていくというようなことになります。よく上司の方がうちはコミュニケーションをとっていると言われることがありますが、多くの場合は“議論”です。一方的に上司の考えを相手に納得させようとして話しているといったことは凄く多いですね。

 

夛田:そうですね。どちらが話している時間が長いですかといった振り返りをすることがありますが、上司の方が7~8割の時間を話しているということもあります。“議論”が多くなってしまっている方もいると思いますが、より良い対話をしていくためのポイントを教えていただけますか?

 

松丘:よく言われるのは、傾聴ですね。その際に、聞いているだけではだめで、聞いて理解することが必要です。相手がどう考えているか、相手の意図、大切にしている価値観は見えないですし、どのような意図や価値観に基づいて話しているかを説明した上で何かを発言しているわけではないので、相手の発言した言葉から、いったいなぜそんなことを言っているのか、ということを理解するということです。例えば、夛田さんは最近嬉しかったことはありますか?

 

夛田:そうですね。嬉しかったことは、自分の思っていたことや意図していたことがお客様にきちんと伝わって、お客様からすごく助かりましたというお言葉をいただいたことです。

 

松丘:それは伝わっていたことが嬉しかったのでしょうか?それとも助かったと言われたことが嬉しかったのでしょうか?

 

夛田:助かったと言われたことの方が嬉しかったです。

 

松丘:なるほど。というように、その“嬉しい”の持つ意味が人によって違いますよね。だから今の単純なコミュニケーションの中でも、夛田さんの嬉しいはどういう嬉しいなのかということを理解しようとしないとわからないわけです。そういった聞き方が必要ですし、その前提として、まず相手に関心を持つことが必要です。そもそも、相手に関心を持っていなかったら、夛田さんにとって何が嬉しかったかということは、どうでもいいことになるからです。

 

夛田:一言で傾聴といっても、能動的に自分から聞いていくっていうことができているのかなとあらためて考えると、自信を持ってはいと言える方はなかなかいらっしゃらないかもしれません。是非、皆さまも傾聴の聞くという部分ができているかという観点で、対話をあらためて振り返る機会を作っていただきたいなと思います。

 

コミュニケーションがコミュニケーションを生む

 

夛田:対話をする際に相手の話の本質や意図をどのように汲み取っていますでしょうか?

コミュニケーションにおいて、どのようなことを掘り下げていくとよいといったポイントはありますか?

 

松丘:コミュニケーションというのは、コミュニケーションがコミュニケーションを生むと言われますが、相手が何かを話す、それがいったいどういう意味なのだろうというのを自分が理解する、理解してまた次のコミュニケーションを発するという連続です。

 

夛田:重なり合っていくというイメージですか?

 

松丘:コミュニケーションが次のコミュニケーションを生み出すという感じですね。たとえ相手の言っていることを間違って理解しても、次のコミュニケーションが生まれるわけです。それは誤解ということですが、そうすると話が変な方向へ行ってしまいますよね。ですから、相手の言っている言葉の意味を理解することは大事です。

 

ところが、相手が言っている言葉の意味というのは、言葉だけ聞いていてもわからないことが多いのです。例えば、「あ、もうこんな時間だ」という言葉を聞いたときに、それは「早く帰りたい」ということなのか「今日中にやらなくてはいけないことが終わらない」ということなのかがわかりません。

 

「あ、もうこんな時間だ」と言うには、それを言わせる動機があり、それが意図となります。相手の言葉の意味を理解するには、その表面的な言葉とその裏にあるそれを発する原因となった意図の両方を理解しないと、正しい意味が理解できません。こういうと難しいように感じますが、普段、人はそれを自然にやっています。

 

それはリアルで対面していると非常にわかりやすく、相手の顔色や表情を見たり、その人が置かれている状況を把握したりしていたら、そういえば今日が締め切りだと言っていたなというのがわかります。

 

相手がなんでそんなこと言っているのだろうと推測することが大切になりますが、よく知っている人でその置かれた状況をよくわかっていると、かなりの確度でその推測が当たるのですが、そうじゃないとなかなかわからないですよね。わからないから、そこは推論する必要があります。

 

例えば、夛田さんが「実は嬉しかったんです」というようなことを言ったとしても、夛田さんの嬉しいってどんな意味かを理解する必要があります。そのためには、夛田さんはこういうことがあったから嬉しかったのか?と聞く。そうではないと言われたら、ではこういうこと?という仮説を検証していくというようなプロセスです。

 

夛田:表に出ている言葉の裏側を探っていく、そんなようにも聞こえてきました。皆さんはいかがでしょうか?日頃のコミュニケーションの中で、その人の意図というところに注目をしていますでしょうか?

この意図というところに注目をすると、深い1on1の実施にもつながっていくのではないかなと感じました。