【導入事例】
OKR等の施策を融合させた人事制度の抜本的変革

更新日: 2024-04-05

OKR・1on1・360度フィードバックなどを導入した企業に対して、株式会社アジャイルHR代表取締役の松丘啓司がインタビューを実施しています。今回は「DXでつながる社会の未来を切り拓く」を企業理念に、企業のデータドリブン経営を支援するビジネスを推進する株式会社テクノスジャパン 代表取締役 社長執行役員 吉岡 隆氏にゲストスピーカーとしてHRカンファレンスにご登壇いただき、お話を伺いました。

株式会社テクノスジャパン吉岡 隆氏: 1999年テクノスジャパン入社。開発・管理など多岐にわたる業務を経験。様々な領域の役職を歴任後、2017年に代表取締役社長(現:代表取締役 社長執行役員)に就任。ERP、CRMに続く第三軸として 自社開発のCBPを事業化。お客さま企業のデータドリブン経営に伴走し、つながる社会の未来を切り拓く事業を推進。

 

株式会社テクノスジャパン。理念実現の鍵は従業員の自律性とエンゲージメントの向上と定め、OKR策定を軸に評価制度や組織マネジメント方法の抜本的な変革を実施してきました。OKRなどの施策が抜本的な改革にどのような影響を与えたのかをご紹介します。

夛田(アジャイルHRファシリテーター):本日はテクノスジャパン吉岡社長をお招きして、いろいろとお話を伺いたいと思います。まずはアジャイルHR松丘より本日の見どころを含めたポイントについてご紹介いたします。

松丘(アジャイルHR代表取締役):多くの企業で、MBOと言われる目標管理制度に基づいた人事評価が行われています。そのやり方が時代の変化に合わなくなってきていると気づきながらも、新しい方法を出せていない企業も少なくないのではないかと思います。その変化にチャレンジしているのがテクノスジャパンです。本日はトップご自身からお話を聞ける貴重な機会ですので私も大変楽しみにしております。

 

企業の成長段階に応じた人事課題の変化

吉岡氏(テクノスジャパン 代表取締役 社長執行役員):今日は私の方から当社のHR戦略について簡単にお話をさせていただきます。

テクノスジャパンは企業のデジタルトランスフォーメーション推進に伴走して、デジタルソリューション・サービスを提供する会社です。日本の他にアメリカ、カナダ、インドなどグローバルの拠点も含めてビジネスを推進しています。そのソリューション・サービスとして、経営・生産・購買・在庫・販売などのヒト・モノ・カネ・情報を管理するERP、そして営業とかサービス部門のヒト・モノ・カネ・情報を管理するためのCRM、サプライチェーンを強化するための企業間協調プラットフォームCBPを当社では提供しています。

システムをどう素晴らしいものにしていくのかは、それに携わる人財にかかっているため、われわれのビジネスの1丁目1番地は人にあると捉えており、経営戦略の中心部に人財戦略があると考えています。

まず当社の組織・人財戦略の背景について説明します。リチャード・ダフトという方が提唱された「創業⇒共同体⇒公式化⇒精巧化」といった組織のライフサイクルがありますが、われわれは1994年に「創業」して以来、まさにこの流れに沿ってきたのかなと思っています。

創業期は少ない人数で始め、100人になり、300人になり、今700人となっています。グループ会社も増え、ビジネスも多様化し、上場もし、いろいろな責任もついてきています。

「共同体」というフェーズでは、われわれの業界の中でしっかりとした立ち位置を確立するというところがポイントになっていました。次の「公式化」のフェーズでは、上場後の組織固めを行いました。

現在は、「精巧化」と言われるフェーズにいると考えており、デジタルトランスフォーメーションをしっかりと推進していく企業としてグループ経営を行いながら、持続的な成長が求められていることからも、単純に画一的な成長だけではなく、いろいろなことを考えた成長が求められています。そのため、より一層、人財の成長が欠かせないということで、人財戦略が重要になっています。

公式化、精巧化のフェーズでは、われわれのビジネスの大きな変化として単一ビジネスから複合ビジネスへということがありました。われわれの創業ビジネスのコアであるERPの領域をより「深化」させていく、深掘りしていく部分と、新しい分野に踏み出すという「探索」を組み合わせていく、ということが公式化から精巧化への流れのタイミングで起きてきました。

国内市場のみだったところから北米の市場にもしっかり広げていったり、M&Aで子会社が追加されていったり、さまざまな変化に対応する必要性が非常に大きくなりました。そこで、管理統制による業績向上から、自律とエンゲージメント強化による業績向上を、足し算するような形で会社としての成長を目指しています。

松丘:企業の成長段階に応じて人事や組織のあり方を発展させてきたという歴史がよくわかりました。非常に順調に成長してきたように聞こえますが、大きな変革をするにあたってトップとして最も危機感を抱いていたことは何なのでしょうか?

吉岡氏:われわれのビジネスの中心・アイデンティティはERPの導入にあり、そこの殻を割っていろいろなことを変えていく必要があります。全くできない文化というわけではないですが、ERPのことしか考えてこなかった部分もあるという反省がありました。

それを変えていくために、従業員に方向性を理解してもらうコミュニケーションは非常に大切であると感じていました。先ほど述べたような経営戦略と人財戦略の連動に、真剣に取り組んでいくべきだなということです。もちろんビジネスの最前線を伸ばしていきつつ、会社の基盤部分も同時に変えていく必要があるという点において、従業員の意識を変えていくというのが非常に難しいところでした。今後もいろいろ起きてくると思うので、しっかり対応しながら両輪で走らせていきたいと思っています。

 

テクノスジャパンにおけるOKRとは

夛田:目標管理制度については、どの企業でもお悩みがあるのではないかと思います。私どもアジャイルHRではOKR導入に関してのご支援をたくさんさせていただいておりますが、5年前はOKRって何ですかというお声が大半でした。昨今では関心興味の高くなった分野かと思いますが、OKRの導入についてもお話をお聞かせください。

吉岡氏:人事制度の検討から、OKRへの取り組みを始めていきました。公式化から精巧化に向かう変化の中、どのような対策を実施していくべきかと考えている中で、キーワードとしてOKRが出てきました。

アジャイルHR社の松丘さんに出会ったのもこの時期です。松丘さんは日本におけるOKRの先駆者ですので、なんとなく考えているところへ、レクチャーを通して理解もだいぶ深まり、腹落ち感も出てきました。この考え方をベースに人事制度を作っていくとどうなるのか?といろいろと議論をさせていただきました。

これまでは、どちらかというとMBO的な、管理型あるいは統制型の枠組みを採用していました。そこに、自律とエンゲージメント強化の要素がプラスされ、さらに業績が向上するというイメージで捉えています。

みんながそれぞれ物事を考えて動いていくと、方向性がわからなくなりますので、ある程度の管理統制というか、方向性を示すという意味で、MBOで進めてきた概念がOKRに引き継がれている部分はあるのかなと思います。ただ単純に効率性優先ではなく、人を育てるとか、画一的なキャリアではなく多様なキャリアプランを検討していくとか、そういった広い視野、高い視座を持って望めるのがこのOKRだと考えています。

今のビジネスの深化と、新しいことの探索を同時に行っていくとお話ししましたが、その際に自律的に考えて物事を進めていくというのは非常に大事なポイントで、そこが基礎にあるかどうかということが、パフォーマンスに大きく影響を与えるというのは間違いないと考えています。ですから、ガチガチに管理するのではなく、ある程度自由度を持ちながらみんなで高い成長を目指していくということをねらってOKRを導入してきています。

夛田:OKRはこれまでのMBOとどこが異なるとお考えですか?

吉岡氏:MBOとOKRの違いについて、われわれは大きく3つのポイントがあると思っています。

一つ目は、MBOでは上から下に業績目標が降りていきます。OKRでは、どういう目的意識を持って、どういう思いでこの数字を達成していくべきか?といった「なぜ」が上から示されたうえで、自主的にゴールが作られます。上からと下からの双方向になっているというのがMBOとOKRの大きな違いかと思います。決して上から下の向きがなくなるわけではありませんが、下から上をより強化していくというところと、数字も大事ですが、目的を踏まえて目標を立てるというところがポイントになります。

二つ目のポイントは、短期的な財務成果だけではなく、より中長期的にどこを目指すのかが明確になるということです。中長期的な成長をこういうふうに見ているから、場合によっては短期的にここを我慢しようという話にもなりますし、やはり今ここをちゃんと推進していこうという議論にもなります。そういったところが大きなポイントだと思います。

三つ目は、最近、非財務情報が重要だと言われるようになりましたが、財務価値だけでなく、人的資本など、非財務の状況をこういうふうにしていく、といった目標もOKRでは比較的立てやすい仕組みになっていると感じています。

MBOでは目標を達成した、していないという話になりますが、OKRはより高い目標を設定して、それが100%達成できなくても、70%程度いけば、すごい結果が出たねというように評価していくという意味で、保守的な目標設定ではなくて、より成長していくための目標設定ができると考えます。

ただ人それぞれ目標の高さが違うので、一概に70%がいいとかいうことではなく、達成度ではそのまま評価しないことにしています。その辺は、正直なかなかメジャメントという意味では難しさがあるとは感じています。どうしていくのか、ということをしっかり議論しながら現在進めているというような状況です。

また、組織的な目標設定をしてチームとしての目標が立てやすいというところもOKRの特徴になっていると思います。頻繁に1on1を実施することによって、OKRについてしっかり意識を合わせて進めていくというようなところが特徴的なところかと思っています。

要は数字を追い求めるのがゴールではなく、このObjectiveを達成すると、結果的に業績がついてくるというのが、非常に素晴らしい枠組みなのかなと私は考えています。当社では全員の主体的なWillを結集することで、より高い目標を持ってバックキャストし、現状を変えていきたいと考えています。つまりその二つの変革創造の流れと改善の流れが、個人のサイクルでも会社のサイクルでも起こるということです。もちろんOKRだけでビジネスできるわけではないので、今まで通り部門として実施する必要があることはMustのこととして推進しつつも、さらに成長していくためにOKRを取り組んでいくべきなのかなというふうに考えています。

 

パフォーマンスマネジメント全体の枠組みの再構築

夛田:テクノスジャパンさんはこのように多くの取り組みを行っていますが、全体としてどのようなパフォーマンスマネジメントを目指されているのか、お話しいただけますか?

吉岡氏:組織の成長と個人の成長は両輪という話をしてきましたが、付随するいくつかのアクションをとることによってOKRで目標指標を管理していったことが、より具体的に運用に落ちていくと考えています。そのために重要なのは、1on1、360度フィードバックです。特にこの三つがぐるぐる掛け合わさると考えています。360度評価と言われることもありますが、あくまでも評価ではなくて、フィードバックという形で行っています。

それ以外では、人財開発会議というのがありまして、従業員自身が作った自分の成長目標を上司が会議体の中で、こういう方向で成長させていこうとしっかり議論していく場があります。

業績向上と個人の成長のためには、やはりエンゲージメントの強化が必要ということで、年に1回エンゲージメントサーベイを実施して、現状を把握しつつ、PDCAを回し、経営の成果を確認しながら、仕事などに対してしっかりと前向きに取り組んで、会社が目指しているところに共感してもらうといったことにも取り組んでいます。

どれをとってもコミュニケーションが非常に大事になってきますので、OKRや人財開発会議そして360度フィードバックの情報も踏まえて、上司と部下でしっかり1on1をします。そういった取り組みをして結果的にエンゲージメントが向上し、当社の成長と、従業員の成長が、連動していくというところを目指しています。

推進していく中でまだまだ改善する必要はありますが、1on1を行っていく中で新たな種が見つかってきているという印象を持っていますので、向かっている方向性は間違っていないと思っています。

OKRだけやろうとすると、運用がなかなかついてこないと思いますので、OKRをしっかりして、文化の浸透をしていく上でも、こういった全体の枠組みと連動させながらOKRを活用していくのが良いのではないかと思っています。

松丘:テクノスジャパンの取り組みは単に個々の施策を実施するのではなく、全体のシステムを変えていくというような、再構築を重視されているというふうに思っています。役員の方々とのワークショップを何度もやらせていただきましたが、皆さん非常に積極的に前向きに参加されていると感じています。吉岡さんがリードしてマネジメント層全員を巻き込みながら変革を推進されてきていますけが、こういう変革を推進していく上で、大切にされていることはありますか?

吉岡氏:どこの会社もそうだと思いますが、現状を変えるということを、なかなかやりたがらない人たちもいるのは間違いないことだと思います。われわれはMission・Vision・Valueの中でも変化を是として常に変化を求めていきましょうと言っていますので、それに基づいて新しい取り組みに挑戦してきました。

そうは言っても、私自身がしっかり旗を振らないとぶれてしまうこともあるかなと思いますし、いろんな会社がある中で、特にわれわれのような業態は、経営戦略における人財戦略が非常に大きな割合を占めていますので、経営戦略と人事戦略をしっかり連動させていき、そこに対して社長としてしっかりコミットメントしていくということが非常に重要だと思っています。