【導入事例】
「両利きの経営」を目指してOKRを活用

更新日: 2022-11-10

株式会社TBSグロウディア 代表取締役社長 園田憲氏(左):1985年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。TBS入社後、20年間バラエティ番組の制作に携わる。その後、編成部門、経営企画部門を経て2016年TBSホールディングス取締役。2019年より現職。

 

OKR・1on1・360度フィードバックなどを導入した企業に対して、株式会社アジャイルHR代表取締役の松丘啓司がインタビューを実施します。今回は株式会社TBSグロウディア 代表取締役社長 園田憲氏にお話を伺いました。

 

松丘:最初に、御社の成り立ちについてお聞かせください。

 

園田氏(以下、敬称略):TBSグロウディアは2019年4月にグループ7社が合併してできた会社です。通販の会社、コンテンツ販売の会社、サカス広場でイベントをやっているスタッフ、ラジオ番組を制作しているスタッフなどなど、幅広い業態からキャリアもさまざまな人たちが集まって一つの会社になりました。

 

これほどの大胆な合併はそうそうないので、やるからには良い会社にしてやろうという思いで今日まで社長をやらせていただいています。

 

合併会社のパーパス・ビジョン・バリューをゼロベースで構築

 

松丘:御社では、パーパス・ビジョン・バリュー、1on1、OKR、360度フィードバックなど、新しい取り組みを次々と行ってこられていますが、どのような経緯でこれらの改革を始められたかについて、本日は伺いたいと思っています。

 

園田:2019年4月に会社が設立された後、この会社はどこを目指しているのか、方向性を合わせることをいつかやらないといけないという思いがありました。

 

ですが、最初に取り組んだのは、とにかく横のつながりを強化し、社員間のコミュニケーションを活発にするために、マネジャークラスを集めた合宿です。加えて、各部門の社員を集めたファシリテーション研修や読書会を何度も開催しました。その後、2020年8月にTBSホールディングス社外取締役の八木洋介さんからGEのPVMVC(Purpose-Vision-Mission-Value-Culture)の話を聞いて感化されたことが、パーパス・ビジョン・バリューの検討を始めた直接のきっかけです。

 

具体的な検討を始めたのは2020年の9月からで、まずは、2か月くらいで何をどのように決めていくか、を決めました。その後、のべ100人くらいが参加するミーティングを何度もやって、パーパス・ビジョン・バリューを発表したのは2021年の4月のことです。

 

内発的動機付けのベースとして1on1を導入

 

松丘:まず会社の理念や方向性を明確にした上で、人事制度や施策を検討していかれたのでしょうか?

 

園田:きれいに積み上がっていったというよりは、同時平行的ですね。

 

松丘さんの『人事評価はもういらない』は以前に読んでいて、従来の目標管理制度に違和感や問題意識をずっと持っていたので、いきなりノーレイティングにはできないかもしれないけれど、できるだけシンプルな人事制度にしたいという思いがありました。

 

2020年9月か10月に当時の人事部長が「この本、いいですよ」と松丘さんの『1on1マネジメント』を僕に持ってきました。それまでは、1on1はやるに越したことはないのだろうとは思っていましたが、十分に腹落ちはしてなかったんです。

 

しかし、パーパス・ビジョン・バリューの検討を始めて、社員の主体性・自律性が必要だと実感していたので、『1on1マネジメント』を読んで、「すぐ、この松丘さんって人に電話してくれ!」と組織開発部にいいました(笑)。内発的動機付けの重要性に共感して、それを実現するベースとして1on1を導入することに決めたわけです。

 

1on1の取り組みを実際に開始したのは2020年の12月です。

 

自律性を高めるために、トップがOKRへの関心を示し続ける

 

松丘:その後、OKRも導入されていきました。その意図はどのようなところにあったのでしょうか?

 

園田:自律性を高めるには、管理型マネジメントではなく自らが目標を立てることが必要になると考えたからです。そこで頭に浮かんだのがOKRです。それまで、そこまでの確信はありませんでしたが、OKRについて知るほどに、これは悪くないと思ったんです。

 

実際に2021年6月から検討をはじめ、7月から9月にかけて毎週、皆でゴリゴリと議論を重ねて、トップ層からミドル層までのOKRを作成しました。

 

OKRを言語化するプロセスでは、自部署だけではなく他部署のOKR検討にも参加して実施したので、組織を越えた業務理解が進むというメリットもありました。今はこの成果がとても大きかったと感じています。今後メンバー層にも展開していく予定です。

 

松丘:OKRを立てた後、皆さん意識して業務を進めていますか?

 

園田:そうですね。OKRはトップの本気度が伝わります。やっぱりわかるんですよね。下から見ているとなぜ会社がこんなことを言っているのか、本気なのか建前なのか。だからトップが本気でやらないと、見透かされて体裁だけになってしまいます。それだけは避けたいと思いました。

 

今では、「OKRにも掲げてますが」という枕詞が各本部の定例会議の中で普通に使われるようになっています。社長が本気になると、ミドルも本気になる。最初は冷ややかに見ていたメンバーにも段々と浸透し、気づけば言葉遣いも変わってくる。全社的に浸透するにはまだ時間はかかりますが、トップが徹底的にコミットすることで、進んでいくと思っています。

 

松丘:次に360度フィードバックのねらいについて教えてください。

 

リーダーが率先してフィードバックを求める

 

園田:まず、やってみた感想はとてもよかった。早くやりたいと思っていましたが、本当によかったと思っています。

 

360度フィードバックには、4〜5年前から関心は持っていました。トップに対して誰も何も言えないというのではなく、リーダーの方からフィードバックを求めるようにならないといけない。リーダーは、自分が課題の一部であるという認識を持つ必要があると思っています。

 

2022年3月に360度フィードバックを実施しました。

 

今回、対象であった管理職100人以上にアンケートを取ったところ、「すごくよかった」が30%、「よかった」が50%、「悪かった」が20%、「最悪」が0%でした。聞きたくなかったという人は若干いましたが、きっとショックだったんでしょうね(笑)。

 

私自身も対象者でしたが、ポジティブフィードバックをもらって、ものすごくテンションが上がりました。ネガティブフィードバックも、「関心のない話題だと聞いていない感じが見受けられます」とか、普通に書いてくる。やっぱりバレてたか、と(笑)。でも、事前にきちんと研修をして、相手の成長を願って書きましょうという作法の元で書いているので、すんなり受け入れられました。書き方はとても重要ですね。

 

組織開発部を設置して、メンバーから作り上げていく組織を目指す

 

松丘:御社では組織開発部でこれらの取り組みを推進されています。人事における組織開発の重要性はしばしば指摘されていますが、実際に組織を設置している企業はあまりないと思います。なぜやろうと思われたのか、どのような期待を持たれているのかという想いをお聞かせいただけますでしょうか?

 

園田:組織開発部を作るぞ、というのは社内に対する宣言でした。個人的には10年くらい前から興味があり、人事の経験はありませんでしたが、TBS社内ではずっと提案はしてきました。組織開発は、ずっと取り組んでみたかったことの一つでした。

 

組織開発って、一言で定義づけできるようなものではないと思うんですよね。別に「人材開発部」でもよかったのですが、やるぞ!という気持ちのこもった名前がよいと思い、組織開発部と名付けました。それが2020年4月です。

 

この会社をどういう組織にしたいか、ということから考えました。私はずっとTBSで育ってきて、遡ると自由闊達な文化で、昔はいいモノを創るためなら現場でケンカとか普通にあった。でもそれは良くも悪くも現場の裁量の自由度がものすごくあったということなんです。

 

その一方で、時間が経ち、私自身が経営企画にいた頃には、人事部や編成部といった他セクションとの組織の壁を感じることも少なくありませんでした。そんな場合はいちいち経営に言わないと物事が進まない。そうした経験から、下から勝手に提案が出てきたり、ヨコで勝手につながれる組織を作りたいなと思っていました。

 

効率効率ではなく、上を忖度するのではなく、メンバーからボトムアップで作り上げていくような、これまでとは逆の組織にしていきたいと思っています。

 

OKRをツールとして「両利きの経営」を実現する

 

松丘:とはいえ、TBSホールディングスも上場企業で、効率が求められている面もあると思いますが、どのようにバランスをとっているのでしょうか?

 

園田:それはまさにOKRではないでしょうか、釈迦に説法ですが(笑)。OKRを軸に置いていれば、自ずとやるべきことが見え、やるべきことに集中することができます。余計な仕事とは、ブルシットジョブという言葉がありますが、自分の仕事の意義や目的、つまり何のためにということがわかってなくてやっている仕事ですよね。だったらそんな仕事はやめた方がいい。そうするとリソースが浮いてくるんですよ。それを新しいことに投入する。それこそ両利きの経営だと思います。

 

TBSグロウディアのメンバーに会議についてのアンケートを取りました。残念ながら、「無駄な会議が多い」が60%という結果になりました。要は何の会議か分かっていないわけです。無駄ならばやめる、という判断が各現場でできるようになってほしいと思っています。

 

各部とか個人が、パーパス=存在意義を点検していくと、そっちじゃなくてこっちだよね、という部分が整理されて集中すべき「目的」が浮かび上がってくる。これがOKRというツールの意義ではないかと思います。

 

松丘:本日は、どうもありがとうございました。

 

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